♪The lady is a trampってどんな曲? 【歌詞和訳】

Pocket

こんにちは、ヴォーカリストのabbie k(アビー・ケイ)です。

「The lady is a tramp」と言えば、ジャズが好きな方であれば、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)か、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)を思い浮かべる方が多いでしょう。

若い世代であれば、レディ・ガガ(Lady Gaga)とトニー・ベネット(Tony Bennett)のデュエットで知ったという方もいらっしゃるでしょう。

ビッグバンドで演奏されることも多く、華やかな印象もあります。

またキャッチーでポップな曲調から、椎名林檎さん率いる東京事変やJUJUさんなど、J-POPのミュージシャンにもカバーされています。

そんな、今さら説明するまでもない名曲「The lady is a tramp」。いったいどんな心情を歌った歌かご存知ですか?

私も最初は漠然と、ノリがよく、楽しい曲調に魅力を感じているだけでした。

しかしこの曲をカバーするにあたり、自分なりに詳しく調べて訳してみると、歴史的背景や、主人公のキャラクターが垣間見えて、その本来の面白さがやっと理解できました。

そこで今回は、私の個人的な見解による、「The lady is a tramp」の歌詞和訳と解説をお届けいたします。

オリジナルはどんな曲?

「映画Babes in arms」のポスター 

Photo by Wikimedia Commons

「映画Babes in arms」のワンシーン 左:ミッキー・ルーニー、右:ジュディ・ガーランド 

Photo by Wikimedia Commons

The Lady Is a Tramp (邦題:レディは気まぐれ/気まぐれレディ)は、ブロードウェイ・ミュージカル『Babes in Arms』 (邦題:青春一座) のため、1937年にローレンツ・ハート作詞、リチャード・ロジャース作曲によって書かれた劇中歌です。

ちなみに、この作詞作曲の二人は、ロジャース&ハートの通称で親しまれ、1930年〜40年代にかけて、 「ブルー・ムーン(Blue Moon)」、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン (My Funny Valentine)」、「魅惑されて(Bewitched)」など数々のスタンダード・ナンバーを世に送り出した名コンビです。

ミュージカルのストーリーは、大衆演劇の一家に生まれた主人公の青年と、その幼なじみが自らの劇団を立ち上げようとする青春コメディです。

その後映画版でも、コメディアンのミッキー・ルーニー( Mickey Rooney)とオズの魔法使いで有名なジュディ・ガーランド(Judy Garland)のキャストで上演されました。

最初にこの曲が発表された時点では、歌なしのバージョンだったようです。

その後は、このロジャース&ハートの伝記映画「Words and Music」でリナ・ホーン(Lena Horne)によって、またミュージカル映画「Pal Joey(夜の豹)」で フランク・シナトラ(Frank Sinatra)によって歌われヒットしました。

 

歌詞和訳

※意訳ですので、あくまで個人的な見解です。また、英語と完全に一対一ではない箇所があります。

Photo by Wikimedia Commons

“The Lady Is A Tramp”

I’ve wined and dined on Mulligan stew and never wished for turkey
As I hitched and hiked and grifted too, from Maine to Albuquerque
Alas I missed the Beaux Arts Ball and what is twice as sad
I was never at a party where they honored Noel Ca-ad
But social circles spin too fast for me
My “hobohemia” is the place to be

I get too hungry for dinner at eight
I like the theater, but never come late
I never bother with people I hate
That’s why the lady is a tramp

I don’t like crap games with barons and earls
Won’t go to Harlem in ermine and pearls
Won’t dish the dirt with the rest of the girls
That’s why the lady is a tramp

I like the free, fresh wind in my hair
Life without care
I’m broke, it’s oke
Hate California, it’s cold and it’s damp
That’s why the lady is a tramp

I go to Coney, the beach is divine
I go to ballgames, the bleachers are fine
I follow Winchell and read every line
That’s why the lady is a tramp

I like a prizefight that isn’t a fake
I love the rowing on Central Park lake
I go to Opera and stay wide awake
That’s why the lady is a tramp

I like the green grass under my shoes
What can I lose, I’m flat, that’s that
I’m alone when I lower my lamp
That’s why the lady is a tramp

 

余り物のごった煮シチューとワインで乾杯

七面鳥なんて必要ないわ

メーン州からアルバカーキへヒッチハイクまでしたのに

舞踏会に間に合わなかったなんて、踏んだり蹴ったりよ

ノエル・カワードをチヤホヤする為の、パーティーなんて行くもんですか

世の中の流行り廃りって、ほんと目まぐるしい

自由奔放なボヘミアンの街が、私の帰る場所なの

 

ディナーが8時からなんて、おなかペコペコで待てない!

劇場にはよく行くけど、遅れていったりしないわ!

つまらない人達のごたごたには巻き込まれたくない!

だから皆に言われるの、「あの女は変わり者」だって

 

セレブたちとの高額なギャンブルなんて興味ないわ!

真っ白の毛皮に真珠で着飾って、ハーレムに行くなんてつまらない!

女どものくだらない悪口にも付き合わないわ!

だから皆に言われるの、「あの女は変わり者」だって

 

自由が大好き、私の髪をゆらす爽やかな風も

悩みなんてない人生

お金はないけど、それで結構!

カリフォルニアは嫌いよ、だって寒くて霧ばかり

だから皆に言われるの、「あの女は変わり者」だって

 

コニーアイランドへ行くわ、ビーチが最高なの

野球の試合へ行って、外野席でみるのもいい感じ

ウィンチェルが書いた記事は、くまなくチェックしてるの

だから皆に言われるの、「あの女は変わり者」だって

プロボクシングを見るのも好き、真剣勝負だから

セントラルパークの池で、ボートを漕ぐのもお気に入り

オペラを観る時は、わくわくして目を見開いちゃう

だから皆に言われるの、「あの女は変わり者」だって

 

地面に広がる青い芝生が大好き

これ以上、失う物なんて何もないの

もともと無一文なんだから

ランプを消して眠りにつく時、私はいつも独りぼっち

だから皆に言われるの、「あの女は変わり者」だって

 

ヴォーカリストの視点で解説

 写真:エラ・フィッツジェラルド Photo by Wikimedia Commons

誰かの曲をカバーする際は、まずその曲の背景や歴史、歌詞の詳細な感情表現を自分なりに調べます。

そしてその曲が描く世界やメッセージを、等身大の自分として表現するように心がけています。

この曲は、男女両方のバージョンがありますが、今回は女性バージョンで解説をしますね。

それにしてもこの歌詞、訳を見ても、時代背景が分からないと何を歌っているのか、理解が難しいですよね!私も見たことのない単語が並んでいたので、とても手こずりました。

しかも辞書で調べても、見つからないような、めずらしい言葉も結構あったりしますので、ここで一つ一つ解明していきましょう。

まず、中盤に「ハーレム」、「セントラルパーク」、「コニーアイランド」と出てくる通り、舞台はニューヨークです。この曲が書かれた時代は1930年ごろ。

この時代のアメリカは、1929年に起こった大恐慌から立ち直ろうとしていた貧しい時期であり、貧富の差が激しい世の中でした。

輝かしい功績を持つ実業家も、陰では裏社会とつながりを持ち、権力を誇示した時代でもありました。

そんな富裕層が出入りする当時の社交界には、厳しいルールやマナーがあり、それは大衆からすれば理解しがたい世界でした。

そんな世界を、庶民の暮らしと社交界の両方を行き来している、自由奔放な女性の視点から見つめて、少し皮肉っている歌なんです。

実際に歌詞に出てくるような女性がいたとは想像しにくいですが、そういうキャラクターを設定することで、より社交界の滑稽さをあぶりだしたかったのでしょう。

「Mulligan stew」は余り物の野菜などを入れたシチューのこと。Turkey (七面鳥)などには手の届かない庶民の食事でした。

「ヒッチハイクをしてたら、舞踏会に間に合わなかった」

舞踏会には遅刻厳禁であったため、少し遅れただけでも会場には入れてもらえないというイヤミなんでしょうね。

ちなみに、「Beaux Arts」 は19世紀フランスの建築様式です。経済性よりも形式を重んじた華美なもので、当時のアメリカで流行していたようです。これも軽い皮肉ですね。その様な豪華な建物で行われるball=格式のある舞踏会ということです。

「ノエル・カワード」とはイギリスの俳優・作家・脚本家・演出家。作詞・作曲、映画監督もしていたマルチタレントで、ファッションリーダーでもあった、言わば当時の流行のど真ん中にいた男性。

「”hobohemia”」というのは、「hobo」と「bohemia」という言葉が合体したものです。「hobo」は貨物列車にただ乗りして、各地を渡り歩く、季節労働者のこと。「bohemia」はアーティストなど習慣にとらわれない自由奔放なジプシーの様に生きるボヘミアン(bohemian)達の居住地区を指します。これも社交界とは対極の世界として表現されています。

「ディナーが8時からなんて、おなかペコペコで待てない!」

当時の上流階級のディナーは遅めからのスタートが一般的だったらしく、そんな時間までは待てないわという意味です。

確かに、毎日あくせく働く必要がない人々は、時間を気にせず毎晩夜遅くまで宴を繰り広げていたでしょうから、むしろ遅めのディナーの方がライフスタイルに合っていたのでしょう。

「劇場にはよく行くけど、遅れていったりしないわ!」

これは、劇場に遅れて行って人目を引いて目立つのが、一種のステイタスのようになっていたところからきています。

「真っ白の毛皮に真珠で着飾って、ハーレムに行くなんてつまらない!」

ハーレムとはセントラルパークのさらに北のマンハッタン区ハーレム地区を指しています。

1920~1930年代中期ごろまでは、ハーレム・ルネサンスとも呼ばれる時代で、アフリカ系アメリカ人のアート、文学、音楽、芸術全般の全盛期でした。コットンクラブという名門高級ジャズクラブでは、デューク・エリントンや、ルイ・アームストロングが観客を魅了していました。アポロ・シアターも黒人のエンターテイナーを雇うニューヨークで唯一の劇場としてオープンし、黒人文化の象徴的存在となりました。

その部分だけ聞くとさぞかし素晴らしい場所のように聴こえますが、当時のハーレムでは、店の観客はすべて白人上流階級で、スタッフと演奏者はすべて黒人であり、根強い黒人差別の文化はまだまだ健在でした。また1920~1930年代初頭まで続いていた禁酒法の時代でも密造酒が流通しており、ハーレムは上流階級の人々にとって、庶民を尻目に、羽目を外して楽しむことができる場所だったと想像できます。

「カリフォルニアは嫌いよ、だって寒くて霧ばかり」 

今も昔もカリフォルニアと言えば、夏は涼しく、冬は温暖で過ごしやすい為、アメリカ人が住みたい場所ランキングに必ず入るのではないでしょうか。

特にニューヨークは夏熱く、冬は極寒ですから憧れる人も多いはずです。海岸沿いでもあり、景色も魅力的です。しかし、場所によってはカリフォルニアは夏でも肌寒い日も多く、とにかく霧が多いですね。彼女はそこがお気に召さないのでしょう(笑) まあ、人々がもてはやすものに、決して飛びつく女性ではないですからね。

「コニーアイランドへ行くわ、ビーチが最高なの」

コニーアイランドとは、ニューヨーク・ブルックリンの南端にある半島で、当時は島でした。ビーチはもちろん遊園地もあり、ニューヨーク中心部から気軽に行けるリゾートです。彼女はカリフォルニアのビーチなんかより、どうやら、こちらの方がお好みらしいですね(笑)

「野球の試合へ行って、外野席でみるのもいい感じ」

日本で野球のチケット料金は1,000円~高くても6,000円ほどでしょう。しかしアメリカは日本円で1,500円~25万円ほどと、席によってものすごい格差があるのです。当然庶民にはbleachersと呼ばれる最安の外野席が一般的。富裕層はもちろん今で言う何十万もする内野席で観戦を楽しんでいたのでしょう。ちなみに当時から現在まで、ニューヨークの球場と言えば、ヤンキースタジアム。1930年代半ばまでベーブ・ルースがヤンキースに在籍していたので、彼女も彼のプレーを楽しんでいたのかもしれませんね。

「ウィンチェルが書いた記事は、くまなくチェックしてるの」 

ウィンチェルとは、当時新聞やラジオで活躍していたゴシップ専門のコラムニストで、新聞に芸能界内幕ニュースを連載していたことで有名な男性です。

それまで報道の世界ではタブーとされていた、著名人のプライベートを、ニューヨークのタブロイド紙に大きく報じた事で人気が出ました。彼のコラムが芸能人の命運を左右されるとも言われていました。

当然、社交界に属する人々からすれば、そんなゴシップ記事は好ましくなかったに違いありません。それを好んで読むことは、避難されてもおかしくなかったのでしょう。

「プロボクシングを見るのも好き、真剣勝負だから」

ニューヨークはボクシングが盛んな土地でしたが、賭博との関係が深く、マフィアの資金源ともなっていたので、1930年代最初まで続いた禁酒法時代には、ニューヨーク州の法律でボクシングが禁じられていた時期があったそう。

しかしその間もボクシング人気はすたれることがなく、プライベート・クラブの様な秘密の場所で、密かに多くの試合が行われていたと言います。

そんな、ある意味無法地帯の中行われる試合は、まさに真剣勝負。そんなところに主人公のレディが迷い込んで観戦していたとしたら…やっぱり「あの女は、変わり者」って言われるでしょうね(笑)

「オペラを観る時は、わくわくして目を見開いちゃう」

オペラ鑑賞は当時の社交界の人々にとっては日常茶飯事であり、しかも長丁場だった為、つい居眠りしてしまうなんていう人も多かった。でもこの主人公のレディは、おそらく本当にオペラが好きで、ウトウトするなんてありえないくらい、目を見開いて楽しんでいたのでしょうね。

逆に言うと、見栄だけでオペラに行っているハイソな人も多かったため、そんなにのめり込んでいる人は、変わり者だったのでしょう。

さて、ここまでこの曲の時代背景や主人公の描かれ方を踏まえて、この曲のタイトルでもある、「The lady is a tramp」の「tramp」は、どんな日本語がしっくりくるでしょうか?

よく「あばずれ」とか「ふしだら」とか言う訳を見かけますが、それだとまるで軽い女性のように聞こえてしまいます。こういう生き方をする女性に対して、世間はその様なひどい言葉で軽蔑したという意図の訳だとも考えらえますが、個人的にこの歌を歌っていてこの訳だと何かしっくりこないんです。

この曲が描いているのは、決して肩書やお金に目がくらまない、自分の好きなものに正直で、世間の目を気にしない自由な生き方が一番の幸せだ!と主張している女性の姿です。

そんな女性がもし目の前にいたら、一番自然な言葉はやっぱり「変わり者」ではないかと思って今回この言葉を選びました。

この記事を書いてみて、改めて感じたのは、この曲には当時のニューヨークの様々なカルチャーが詰め込まれていることです。

社交界についてはもちろん、「ハーレム」「コニーアイランド」「野球」「ウィンチェル」「ボクシング」「セントラルパーク」などなど、ニューヨークを象徴するキーワードがたくさん出てきて、ニューヨーク愛がすごく感じられるのが、この曲の裏の魅力ですね。

私個人的には、どんどん想像が膨らんで、いつかニューヨークに行って当時の面影を感じられる場所を巡ってみたいと思うようになりました。

まとめ

以上が、私なりに考えるこの曲の和訳と解釈です。

ブロードウェイ・ミュージカル『Babes in Arms』 (邦題:青春一座) のため、1937年にローレンツ・ハート、リチャード・ロジャースの名コンビによって書かれた劇中歌です。

この曲の主人公は、肩書やお金に興味はなく、自分の好きなものに正直で、世間の目を気にしない自由な生き方を謳歌している女性です。

また、当時のニューヨークのカルチャーを垣間見る事ができるキーワードが多くちりばめられており、作者のニューヨークに対する愛情が感じられます。

上記のようなポイントを意識して聴いてみると、あなたもこの曲の舞台、1930年ごろのニューヨークの活気を感じる事ができると思いますよ。

是非想像しながら聴いてみてくださいね。

そして、あなたがこの曲が気になったのは、決して偶然ではないはず。

型にはまった生き方ではなく、この曲の主人公の様に、自分の感性で自由に生きてみたいという気持ちがどこかにあるのではないでしょうか?

この記事が、少しでもそんなあなたの力になれればうれしいです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 

Pocket

関連ページ